「謙也のことが好きやねん」





忍足謙也、ただ今ピンチです。
目の前に立っているのはクラスメイトであり部活のチームメイト、彼が部長で俺は部員という関係でもある白石蔵ノ介にそう告げられたのだ。


「ちょい待ち、一端整理さして」

「待てへん、謙也の気持ち聞かしてや」


想い詰めたように言い寄られれば、普段余裕たっぷりの白石でもこんな表情ができるのかと他人事のように考えていた。


「あんな、俺は男でお前も男」

「そんなん判っとるわ」

「なら応えも見えとるやろ?」


俺が少々冷たく言い放てば、途端に彼は俯いて綺麗な顔を隠してしまった。
そりゃあ、俺だって白石のことは嫌いじゃない、寧ろ好きな部類だ。
しかし、だからといって恋愛対象にはならない。
だって俺も男で白石も男、その辺の女子なんかより白石の方が綺麗ではあるけれど、自分より背丈だってある白石をどうにかしたいなどと思ったことは一度だってない。


「わかったわ、困らせて御免な」


俺が黙々と白石のことを考えていると、当の本人は俯いていた顔を上げそう言った。
わかって貰えたのだと安心した…はずだった、


「せやったら、最後の思い出に抱かしてや」

「え、ちょ、え?」


言い終わる前に部室にあった硬いベンチに押し倒される、言い忘れていたが此処はテニス部の部室であり、白石が部長を務めている部室でもある…つまり、鍵は彼の手の内にあり、当然今も密室の状態で俺は白石に押し倒されていた。


「ちょ、待てや白石、マジでマジで!」

「アカン、待てへん。困っとる謙也見とったら抑え効かんくなった」





───ええええ、俺の所為?





ちゅうか、何?俺、押し倒されてんねんけど、俺がネコなん?
綺麗な顔で如何にも受けです臭出しとる白石に、俺が抱かれんの?
その前に、まだ女の子ともセックスしたことないのに先に処女奪われるとかマジで笑えへん。
財前に何て言ったらええねん?
「脱処女しました☆」か?いやいや、やっぱ笑えへん。
俺は既に脱童貞を果たしている後輩の嘲笑いを想像して、今の状況以上に顔を歪めた。


「謙也、そんなに俺のこと嫌いか?」


俺の歪んだ顔を見て、白石が服を乱そうとしていた手を止めて不安げな顔で問いかけてきた。
あまり見ることのできない貴重な表情に、こんな状況にも関わらずかわええやん!なんて思ってしまった自分を呪いたい。


「いや、嫌いっちゅーか…なんやこの状況が非現実的過ぎてどうしてええかわからんねん」

「なら、謙也は俺に任せてくれたらええわ」


返答間違ったかな、と思う前に拒絶されなかったことに安堵した彼に再び服を乱され始めてしまった。
ここは男らしくはっきり「止めろや!」言うべきだった…なんて考えている暇もない。


「ちょ、白石、冗談やろ?取り返し付かんくなる前に止めようや」

「謙也やって満更でもないのとちゃうん?ホンマに嫌やったら殴ってでも逃げればええやん」


確かにそうだ、俺だって男だし、相手が女の子でもないのだから、殴ったってそこまで問題にはならないだろう。
多少問題になったとしても、「喧嘩した」の一言で済まされる。
ここはいっちょ本気出して、白石をギャフンと言わせたろ!そう心に決め、彼に掴まれていた手を振り払おうとした。


「ん?え?あれ?」

「どないしてん、謙也くん」


ニヤニヤと白石が見下ろしてくる。





────動かない。





ちょっと待って、白石ってこんな力ありましたっけ?
細身だし色白だし、どう見ても俺の方が力では勝っているはず…なのに、今この状況下でびくともしないのが現実であった。


「いやいやいや、待って白石くん、なんで?」

「こんな日の為に筋トレしとって良かったわ、もう逃げられへんで謙也」


白石の言葉と圧倒的な力の差に俺は従うしかなかった…
そんな簡単に力の差を捏造してええの!?と思わざるを得なかったのが本音である。
今日で俺は処女ともお別れ、明日から小春とユウジの軍団に入団申請しなくてはと、どうでもいいことを考えていた。







end

20100318

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一年ぶりの創作、どや!



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